パン作りに欠かせない小麦粉ですが、強力粉で作らないとダメなのか?薄力粉とどう違うのか?代替利用できないのかなど、レシピを見ながら迷っている方へ。パン作りを始める前に、ぜひ一読してください。小麦粉の種類や、使う小麦粉によってパンの仕上がりが、どのように変わるのかといった疑問を解決します。さっそく見ていきましょう:
結論を先にお伝えすると、
- 強力粉、中力粉、薄力粉の違いは、たんぱく質量。
- たんぱく質量が多いと、パンの骨格となる構造(グルテン)が作られる。グルテンが少ないと、パンは発酵ガスを保持できないので、膨らまない。
- 薄力粉は、強力粉の代替で使えない。たんぱく質量が少ないので、単体利用ではパンは膨らまない。
- 食パンや菓子パンには、強力粉 or 強力粉₊薄力粉の組み合わせが◎。
- バゲットなど「ハード系」は、準強力粉が◎。
1.小麦粉ってなに?
小麦粉は、その名の通り、小麦を粉砕した粉です。小麦の構造は下記の通り、表皮という、いわゆる、ブランやふすまと言われる皮で、覆われています。栄養素が多いので、よくシリアルや健康食品で利用されています。表皮の中には、胚乳(小麦粉になる部分)と胚芽があります。私たちがよくスーパーで見かける、白い小麦粉は、粉砕したあと、表皮と胚芽を取り除いた状態のものです。
1-1.小麦粉の栄養素と、パン作りとの関係
小麦粉に含まれる主な栄養素は、たんぱく質(8~12%)、でんぷん(70%)、と灰分(ミネラル)です。この中で、パンにとって欠かせないのが、小麦粉特有のたんぱく質、グリアジンとグルテニンです。
この2種類のたんぱく質が、水と加わり、捏ねられることで、別々だった両者が絡み合い、つながり、網目状の構造になります。この網目がグルテン構造で、ここに、イーストの発酵ガスが保持され、パンが膨らむのです。
☞関連記事:
グルテンについて、詳しくはこちらで図解しています:パンの発酵の仕組みと、発酵を左右する要因【わかりやすく図解】
ちなみに、小麦粉内のでんぷんは、糖分のかたまりなので、イーストの発酵のエネルギー源となります。
☞でんぷんとイーストに興味のある方は、こちらから:パンの発酵の仕組みと、発酵を左右する要因【わかりやすく図解】
1-2.小麦粉の分類①タイプ:たんぱく質量
小麦粉は、おおまかに、タイプ(たんぱく質量)とグレード(灰分量)に分類されます。まずは、タイプの分類から見ていきましょう。
上記のように、たんぱく質はパンの骨格を作るので、パンには欠かせません。そして、たんぱく質量に応じて小麦粉は、「強力粉」、「準強力粉」、「中力粉」、「薄力粉」のタイプに分類されます。強力粉が最も、たんぱく質量が多く、薄力粉が最も少なくなります。下記が、それぞれのたんぱく質保有量と、用途をまとめたものです。
※たんぱく質量は、「五訂増補日本食品標準成分表(本表) 穀類」をもとに作成。「準強力粉」の項目がなかったので、数値未記入だが、一般的には11%。
|
強力粉 |
準強力粉 |
中力粉 |
薄力粉 |
たんぱく質量(1等粉の値) |
11.7% |
― |
9% |
8% |
主な用途 |
食パン、菓子パン |
バゲット等のハード系のパン。クロワッサンやパイ生地 |
麺類、マドレーヌ・クッキー等の焼き菓子 |
ソフトなスポンジケーキやクッキー等のお菓子 |
文部科学省「五訂増補日本食品標準成分表(本表) 穀類」をもとに作成
強力粉が、最もたんぱく質保有量が多いので、グルテンが最もしっかり生成され、一番膨らみやすい生地が作れます。日本でのパン作りにおいては、基本的に強力粉で行います。「日本でのパン作り」という表現をしたのは、日本で好んで食される、食パンや菓子パンは、ふわふわボリューミーなものが好まれるので、きめ細かいグルテンが生成される、強力粉が一番向いているのです。
1-3.小麦粉の分類②グレード:灰分(ミネラル量)
もうひとつ、パンの分類で一般的に用いられるのが、グレード(灰分量)です。
グレード、はそれぞれのタイプ(強力粉、薄力粉etc)ごとに、1等粉、2等紛、3等粉、末粉に分類されます。1等粉が、一番灰分値が低く(ミネラル量が少なく)、色も明るい白色でくすみがほぼないです。
日本では、真っ白い食パンが好まれるので、灰分量が少ない粉が使われることが多いです。(最近では、健康志向で全粒粉やライ麦を利用したパンもじわじわブームになっていますが、白いパン人気は根強いと思います)。
下記が各等級のおおまかな灰分量です。
等級 | 灰分量(%) | 色 |
1等粉 | 0.3~0.4% | 明るい色(白に近い) |
2等粉 | 0.5%前後 | |
3等粉 | 1.0%前後 | |
末子 | 2~3% | 暗い色 |
等級が1から3になるほど、小麦のふすま(外皮)の部分が含まれるので色が濃くなります。同時に栄養価も高くなります。栄養価や、風味などを考えると、必ずしも、1等級のものが、いつでも一番よいというわけではありませんが、一番くせがなく、凡用性が高いので、生地が作りやすく、バリエーションも広げやすいと思います:)
1-4.★おまけ:強力粉と薄力粉の見分け方
例えば、パン作りの際、強力粉と薄力粉を両方軽量し、どちらがどっちだ...ということがもしあった場合、粉を握ると、すぐに見分けられます。
下写真のように、粉をぎゅっと握って、指の形がのこり、硬く固まるのが、薄力粉です。
一方、強力粉は、ぎゅっとした手を離したらすぐ、形が崩れサラサラし、固まりません。
これは、強力粉と薄力粉の原料となる小麦の性質の違いのためです。注目して頂きたいのは、「硬さ」と「粒質」です。
小麦の性質 | 強力粉 | 薄力粉 |
播種(ばしゅ)期 | 春小麦 | 秋小麦 |
粒色 | 赤小麦 | 白小麦 |
硬さ | 硬質小麦 | 軟質小麦 |
粒質 | 硝子(ガラス)質 | 粉状質 |
強力粉は、薄力粉に比べて、硬くて、質感も硝子質で粒子が粗いです。なので、ぎゅっとにぎっても、粒子の間に隙間ができるので、固まりません。一方、薄力粉は粉状質で粒子が細かいので、握ると粒子同士が密着しやすく、固まります。握った感触が全然違くておもしろいので、ぜひ握ってみてください😊
2.パンに向いている、小麦粉は?
生地がパンになる前提として、グルテン構造の生成が不可欠なので、パン作りに向いている小麦粉の種類は、強力粉と准強力粉です。ただ、どのようなパンを作りたいかで、使う小麦粉のチョイスも下記のように、変わってきます。
2-1.どのパンには、どの小麦粉を使うべきか?
★ 食パン、菓子パンなら、強力粉が◎
★ バゲット・リュスティックなど、皮がバリバリして断面の大小の穴あきが特徴的なハード系は準強力粉が◎
★ 歯切れがよい、フォカッチャ・ピザ生地も准強力粉が◎
★ サクサク食感のクロワッサンも准強力粉が◎
菓子パンや食パンのように、ふわふわ、もちもち、やわらかいパンであれば、強力粉が◎です。グルテンの網目構造が緻密になることで、発酵ガスが均等に保持され、焼き上がりの断面がきめ細かく、ふわふわもちもちになりやすいです。また、パンの皮も薄くなりやすいです。
一方、パンの食感的にふわふわではなく、あっさり歯切れのよいフォカッチャ、ピザ生地、サクサク感を味わいたいクロワッサン、あるいは、リュスティックやバゲットみたいに、皮のバリバリ感を楽しみたい場合は、たんぱく質量が少なめの准強力粉が◎です。
※准強力粉は、スーパー等ではなかなか購入できないので、ご家庭で作るのであれば、強力粉と薄力粉を半々でまぜて代用することも可能です。購入できる場所は、こちらを参照ください。
2-2.強力粉を、薄力粉で代替できるのか?
残念ながら、代替はできません。薄力粉は、たんぱく質保有量が低いので、パンを膨らめせるために必要不可欠な、パンの骨格グルテンが生成されません。グルテンが生成されなければ、イーストの発酵ガスを生地が保持することができないため、パンは膨らみません。
薄力粉で練った生地は、いくら練ってもパン生地特有の、弾力と伸びがでません。薄力粉は、ケーキやクッキー等お菓子作りに向いている小麦粉なのです。
ただ、強力粉と併用して使える場合があります。2-1で記載したように、准強力粉が手元にない場合は、強力粉と薄力粉を半量ずつ混ぜて使うことで、代替可能です。あくまでも、強力粉のたんぱく質量をやわらげ、準強力粉のそれに近づけるための役割で入れているので、薄力粉単体では、使わないでくださいね。
- スーパー
強力粉や、薄力粉は、大体のスーパーで購入可能です。よく見かけるのが、日清製粉の、カメリヤ(強力粉)とフラワー(薄力粉)です。当ブログのレシピでも、この2種類の小麦粉を使っています。ちなみに、カメリヤは、わたしがパン屋で働いていたときも、使っていました。凡用性が高くて、ご家庭でも使いやすい小麦粉です。
- 製菓製パン店
ただ、准強力粉は、スーパー等ではあまり販売されていないので、製菓製パン材料を扱うお店(富澤商店、CUOCA)での購入が◎です。種類もあるので、おすすめです。
- ネット購入が確実
また、上記のお店は、ネットでも1kgから粉を購入できます。下記にリンクを記載します。
・富澤商店
(https://tomiz.com/category/1120)
・CUOCA
(https://www.cuoca.com/fs/cuoca/c/1008)
4.まとめ
- パン作りにおいて、小麦粉のたんぱく質量が重要で、強力粉、中力粉、薄力粉によって保有量が異なる。たんぱく質が、パンの骨格となる構造(グルテン)を生成し、発酵ガスを保持して膨らむ。
- 薄力粉は、強力粉の代替としての利用は不可。たんぱく量が少ないので、単体利用ではパンは膨らまない。ただ、強力粉と併用することで、準中力粉のような食感に近づけられる。
- 使う小麦粉によって、パンの食感や見た目が大きく変わるので、作るパンの種類によって、小麦粉を使い分けるのが◎。
- 食パンや菓子パンには強力粉、バゲット(ハード系)、ピザ、クロワッサンは、準強力粉が◎
5.最後に…
小麦粉の性質を知ることで、パン作りの幅が広がりますよね。強力、準強力、全粒粉等々。小麦粉以外にも、ライ麦、米粉、デュラムセモリナ粉等、粉の種類はいっぱい。食パンなど基本のパン以外にも、ぜひハード系やクロワッサンなどにも挑戦してみてくださいね。それでは、今日もパン作り楽しんでください:)
コメントお待ちしてます!
コメント一覧 (2件)
小麦粉の選定、実は製パン技能士実技試験の最初の関門です。ブログにアップして頂いている「手で触れて強力粉と中力粉を判別する」ところから始まります。(この解説、とても有意義ですね)
ほとんどの受験生の皆さんはクリアーされるのですが、時々間違えてしまう方がみえます。
小麦粉の粒度の違い(小麦の硬さの違いに由来している)を理解しておくとわかりやすいと思いました。
コメントありがとうございます!そうですね、手で握ったときの違いの理由を知っていれば、実技試験など緊張する場面でも冷静に判断できそうですね。