Roti(ロッティ)とは、マレーシアで定番の平たい食事パンです。手でちぎって、カレーや砂糖に付けて頂きます。パイみたいに、外はクリスピーでサクッとしていて、中はやわらかく、バターと油分の香りが食欲をそそるパンです。平たいですが、手でちぎると、パンの中にパイのようなの層ができていて、引っ張ると、層がほどけていきます。日本には、あまりない食感のパンです。
私は小学生の時、マレーシアはマラッカに住んでいたことがあり、おいしくて好きだったRotiを作って紹介したいと思いました。Rotiをちぎって、砂糖に付けて食べるのが、甘くてとってもおいしい!素朴で、たまに食べたくなる味です。
現地では、屋台や学校のCanteen(食堂)で食べられ、スーパーでも冷凍のRotiが売られていました。Rotiは、日本でいう食パンのような立ち位置の、国民パンなのです。
作り方がおもしろくて、かつ簡単なので、さっそく作っていきましょう:)
1.Roti canaiって何?
Roti(ロッティ)は、マレー語で「パン」、Canai(チャナイ:Chah-nigh)は、「パンを平たく、薄く伸ばす」という意味です。
Roti Canaiは、直訳すると「平たいパン」・「フラットブレッド」という意味です。
最大の特長は、平たく、パイのような層がある”Flaky”な見た目と、クリスピーな食感です。この食感を出す秘密は、作り方にあります。Rotiは、成形時、生地を紙よりも薄く伸ばします。そして、伸ばした生地を、たたんで丸く伸ばし、それを、Griddle(鉄板)で焼き色がクリスピーなGolden brownになるまで、揚げ焼きにします。
うすーくのばして、生地を折ることで、パイに似た層ができ、鉄板で揚げ焼きすることで、外はサクサクになります。また、Rotiはパンですが、イーストや酵母が入っていない無発酵パンなので、パイとパンの間ような食感に仕上がります。発酵していないので、身の部分はソフトですが、パンのようにふわふわはしません。
2.お国はマレーシア、発祥の地は南インド
もともとは、南インドが発祥で、現地ではRoti parathaと呼ばれています。Rotiは、Mamak(インド人のムスリム)の行商人によって、シンガポールやペナン(マレー半島の西側、マラッカ海峡北口にある小島)の、マーケットや市場、コーヒーショップ等で売られるようになり、1920年代には、定番食となっていたようです。Roti parathaは、マレーシアの食文化と合わさり、独自の変化を遂げ、Roti canaiという名称でマレーシア全土で親しまれる、国民パンになりました。
インドでは(地域によりますが)、朝昼晩と、Rotiが食卓に登場するそうです。ナンやチャパティーのように、Dalという豆カレーに付けて食べるのが定番です。マレーシアやシンガポールでは、朝食や軽食で頂くことが多いです。いずれも、Dalや砂糖、その他屋台フードと一緒に主食として、日常的に食されています。
地域によって、名称が異なるRoti
発祥の地、南インドやスリランカではRoti Paratta、北インドではRoti Paratha と呼ばれています。
一方、マレーシアでは、Roti canai、インドネシアでは、Roti cane、シンガポールでは、Roti prataという名称で呼ばれています。
また、Roti発祥の南アジア地域と、マレーシアを含む東南アジア地域のRotiとでは、生地の配合や、成形の仕方も微妙に異なります。Rotiは、それぞれの国で、それぞれの食文化を交えながら、独自の発展を遂げているのです。
地域によって、配合と工程が少し異なるRoti
Roti発祥の地、インドのTraditional なレシピでは、材料は粉(全粒粉が白い粉)、Ghee(ギー:インドの濃厚バター)、水と塩というシンプルな配合で作られています。また、工程については、Rotiは、イーストが入っていない無発酵パンなので、捏ねから焼きまで、早いレシピだと40分前後で完成します。
【インドのレシピは、シンプルなものが多い】
一方、マレーシアのRoti Canaiのレシピを見ると、基本材料に加え、砂糖(or 練乳)、卵、牛乳を加えたリッチな配合のものが多いです。
【Roti canaiは、リッチな配合のレシピが多い】
また、工程についても、マレーシアのRoti canaiは、生地の休ませ時間を長く取るレシピが多く見受けられます。Roti canaiの特長である、パイのサクサク食感とやわらかい層を出すためには、成形工程がかなりのポイントになります。生地を極限まで薄くのばして折り込んでいくため、生地に伸展性(伸びる力)が求められます。
なので、無発酵生地でも、捏ねてから最低2時間、あるいは一晩生地を寝かせてから、成形工程へ移行するレシピが多いです。生地をしっかり休ませることで、グルテン結合が十分に生成され、生地が成形に耐えられる伸展性を身に着けられます。この長い休ませ時間があるからこそ、平たいパンでありながら、パイのように層ができたハラハラ食感ができ上がるのだと思います。
☞グルテンに興味のある方は、こちらを参照ください:イースト(発酵)とグルテンの関係【発酵で食感がどう変わるのか】
ちなみに、この食感を時短で出すために、生地を一晩おかずに、ベーキングパウダーを配合したレシピもあります。しかし、個人的にはシンプルに行きたいので、ご紹介するレシピでは、生地を一晩寝かせたものになっています。
地域によって、成形が少し異なるRoti
南アジア(インド、スリランカ等)では、生地を綿棒や手で薄く伸ばして、扇子(paper fan)のように、ひだをたくさん作る成形が主流のようです。
一方、東南アジア(インドネシア、マレーシア等)では、生地を空中でFlipして、油をひいた面台にたたきつけて、紙より薄く伸ばしていきます。ピザを伸ばす方法と少し類似しています。成形も、ひだを作るのというよりは、畳んだり、封筒(envelope)のように四角く折っていくものが多いようです。
微妙な違いですが、基本的に折る回数や、ひだの量が多いほうが、層がたくさんのパンに仕上がりになります。クロワッサンやパイの折り込みと、原理は一緒だと思います。
本レシピでは、層とクリスピー意識した工程をご紹介します。それでは、レシピの配合を見ていきましょう:
3.材料
【お国】マレーシア
【焼き上がりサイズ】直径15㎝×5枚
【カロリー】1枚≒252kcal
【作業時間目安】1日目:仕込み20分
休ませ一晩
2日目:2時間程度
【道具】カード、フライパン
【製作日の気象条件等】8月 PM 🌡28℃
☼晴れ
■ 材料一覧
- 強力粉 150g (60%)
- 薄力粉 100g (40%)
- 砂糖 10g (4%)
- 塩 3g (1.2%)
- 水 43g (17.2%)
- ミルク 65g (26%)
- 卵 40g (16%)
- 溶かしバター 60g (24%)
- 溶かしバター(成形・焼き用)
生地量合計: 471g
⇒かっこ内の%は、ベーカーズパーセントです。0.1gは四捨五入
★ 事前準備:生地の配合外のバターを溶かしておく。
■ 強力粉:日清製粉「カメリヤ」
初心者でも使いやすい定番の小麦粉。食パン、菓子パン、総菜パンと幅広く利用可能です。
※「スーパーカメリヤ」という小麦粉もあるので、ご購入の際は商品名の確認をお願いします。
■ 薄力粉:日清製粉「フラワー」
本レシピではパイの食感を出すために配合しています。(強力粉のみだと生地の引きが強くなりすぎてしまいます)
4.作り方
<1日目:生地を仕込む>
- 生地用のバターと、生地分量外のバター(30g程度)をレンジで溶かす。
- 生地の材料はすべて合わせて、捏ねる。最初はゆるいが、5分程捏ねるとまとまりはじめ、10分すると、表面がなめらかになってくる。生地を持ち上げた時に、つながっていればOK。(膜は気にしなくても大丈夫)
【捏ね始め5分】
【捏ね始め10分。持ち上げてしっかりつながっていればOK】 -
生地を大体95gに分割して、丸める。
-
丸めた生地に、溶かしバターをまんべんなく塗る。
バターを塗ったトレーや皿に生地をのせ、ラップし、冷蔵庫で一晩休ませる。
★乾燥防止のため、バターはたっぷり塗るのがポイント。<翌日(2日目)>
【一晩おいた生地:伸ばすと全体的に指紋が透けるほど膜が薄くなり、伸展性があるので、破れにくい】
捏ね上げ時に、膜がなかった生地も、一晩おくことで、グルテン結合が強化され、薄い膜ができます。
【前日の捏ね上げ直後の生地:膜はあるが、伸ばすと不均等で、厚さが残り、切れやすい】
<成形> -
作業を開始する1時間前には、生地を常温に戻しておく。ついでにバターも常温に戻し、成形前までに溶かしておく(60gあれば安心)。
- 面台にバターを塗る。その上に生地を置き、手で丸く伸ばしていく。
- 両手を使いながら、生地の中心から外側へ生地を薄く伸ばしていく。厚さの目安は、紙の厚さくらいで、指紋が透けて見えるほど。とにかく、薄く伸ばす。
【 中心から端へと生地を伸ばしていく】
【紙の厚さ(paper-thin) になるまで、伸ばす】
【直径40㎝程の大きさまで伸びる】
______________
【空中Flip技】
ちなみに、本場の職人は、下のように生地を手ではさみ、生地を空中でFlipして、面台にたたきつけて生地を薄く伸ばしていくようです。ピザ職人に少し似ていますね。
【↓両手の親指と残りの4本で生地を持ち、空中に持ち上げ...】
【空中に持ち上げた反動で、生地を伸ばし、面台に叩きつけて伸ばす】
※空中に上げた時に、生地がくっついたりして、難しいですが、空中Flip、ぜひチャレンジしてみてください:)
______________ - 工程に戻ります:薄く伸ばした生地の表面に、バターをまんべんなく塗る。
★ここでバターをケチらずに塗ることで、パイのようなエアリーな層が、出やすくなる。
- カード(手でもOK)で、生地を片端から中心に向かって寄せていき、扇子(paper fan)のようなひだを作る。反対端からも、同様にひだを作る。ひだ(折り目)は多いほど、層がエアリーになる。
【カードや手を使って、生地を端から中心にたぐり寄せる】
【最終的には、ひだがたくさんの棒状になる】
☞他の成形方法は、こちらを参照ください。 - 生地の両端を手でもち、少しブンブン振って伸ばす。(生地の長さが1.5倍弱になるくらいまで)
- 片手で生地の端を持ち、クルクル巻いていき、とじ目は下にしまう。
【巻き終わりは、しっかりしまう】 - 15分程休ませる。
- 生地を手で、直径15㎝程に伸ばす。
<焼成> - フライパンに、バターを多めにひき、弱火で両面6分~ずつ揚げ焼きにする。※火力が強すぎると、中まで火が通らないので、弱火でこんがり焼いていく。
- ★焼き上がり、熱いうちにRotiを両手でくしゃっとさせ、層を出したら完成。
ちぎると、パリッとして、やわらかく、中が薄い層になっているのが分かります。
① 両端をたたむ成形
両端の生地を、中心でたたむを繰り返していく成形。



② 3つ折り成形
生地を1/3に、折っていくのを繰り返す成形。クロワッサンと同じ成形ですね。



③ 封筒折り(Envelope shape)
生地の四隅を中心にたたむだけ。Rotiの形は、四角になる。
★個人的な見解ですが、上記(封筒折り以外)を試した結果、レシピ本編でご紹介の、ひだをたくさんつくる”Paper fan”折りが、お気に入りです。一番サクッとして、層がいっぱいのFlakyな仕上がりになりました。ぜひ皆さんもいろいろな折り方で、好みの食感を見つけてください:)
5.Rotiは、砂糖とMiloで甘く頂く
カレーと一緒に頂くのもGoodですが、砂糖に付けて食べるのがおすすめです!! 日本の揚げパンが好きな方は、きっと好きな味だと思います。その際、飲み物は、ぜひマレーシアの国民的ドリンク、MILOとともに:)
ご存じの方も多いかと思いますが、MILOは、甘いチョコレート風味の麦芽ドリンクで、アジア圏ではとても人気なドリンクです。マレーシアでは、スーパーや、学校の食堂はもちろん、マクドナルドでもMILOが売られているほど定番です。(余談ですが、MILOは1934年オーストラリア生まれだそう。)
プチ情報ですが、わたしのインドネシアの友達情報によると、インドネシアのMILOより、マレーシアとシンガポールのMILOの方が、味が濃くておいしいのだとか。ちなみに、日本で販売されているのは、製造@シンガポールでした!
フランス人が、クロワッサンをホットチョコレートに浸すように、RotiをMILOに浸して食べても、とってもおいしいです。ぜひ、召し上がれ:)
6.参考ウェブサイト・レシピ一覧
今回、レシピを作るにあたり、下記海外サイトを参考にしました。
・https://www.elmundoeats.com/homemade-roti-canai/
・https://rasamalaysia.com/roti-canai-roti-paratha-recipe/
・https://www.gourmettraveller.com.au/recipes/browse-all/roti-canai-14197
・https://www.thespruceeats.com/difference-between-roti-and-roti-canai-3030165
(※海外のサイトを参考にしたということで、記事を書いているわたしの参考経歴:外資系ホテルのベーカリーで5年間の勤務経験があり、TOEICスコアは920点です。)
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