砂糖とパン作り【砂糖の効果をやさしく解説します】

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砂糖には、パンを甘くする以外にも、たくさんの効果があるのは,ご存じ
しょうか? 添加量によっては、パンにとってプラスにもマイナスにもなります。砂糖の働きについてやさしく解説します。自分のレシピを考案するさいの参考にしてください 🙂

 

1.砂糖の特性


砂糖の効果をまとめると、次の5つになります:


1.イーストの発酵のエネルギー源になる
2.パンを甘くする
3.パンをしっとりさせる
4.生地を傷みにくく、伸びやすくする
5.パンの色づきをよくする


それぞれの効果について、詳細を見ていきましょう:


1-1.イーストの発酵のエネルギー源になる


パン作りに欠かせないイーストは、糖分をエネルギー源として、発酵活動を開始します。発酵により、アルコールと炭酸ガスが生成され、パンが膨らみ、パン独特の香りが生成されます。

砂糖の主成分は、ショ糖という糖分です。主にサトウキビや、サトウダイコン(テンサイ)から抽出されます。

■ 生地内での、ショ糖の動き

このショ糖は、ブドウ糖と果糖が結合してできたものです。パンのミキシングの工程がはじまるとともに、ショ糖は、イーストの細胞壁(細胞の一番外側)に存在する、インベルターゼ酵素の作用で、ブドウ糖と果糖に分解されます。

分解された糖分は、イーストの細胞のさらに内部へ通過していきます。そして、イースト内にあるチマーゼという酵素の作用により、アルコールと炭酸ガスが生成されるのです。



■ ショ糖は、ミキシングと同時に即エネルギー源になる

ちなみに、イーストのエネルギー源となる糖分は、砂糖の他に小麦粉内に含まれている、でんぷんがあります。しかし、でんぷんは、ショ糖よりも、糖分の鎖(結合)が長く、イーストの酵素が作用できるまでに2回の分解作業が必要になります。なので、イーストがでんぷんをエネルギーとして利用できるまで、時間がかかるのです。

一方、ショ糖はイーストの酵素によってすぐに分解ができる大きさでし。なので、ミキシングと同時にイーストのエネルギーとして活用されるので、初動が早いのです。
☞ でんぷんの分解工程についてはこちらを参照ください:パンの発酵の仕組みと、発酵を左右する要因【わかりやすく図解】



1-2.パンを甘くする


■ 甘味の強さ

砂糖はパンを甘くします。
補足情報ですが、砂糖の主成分であるブドウ糖と果糖は、甘味の強さが異なります。砂糖の甘さが100だとすると、ブドウ糖がおおよそ70ですが、果糖は120~170と甘味が強いです。(果糖は、果実と野菜の汁液やはちみつに多く存在します)。


■ 甘味料について

ちなみに、よく成分表示で甘味料が添加されているパンがありますが、甘味料はイーストのエネルギー源とはならないので、砂糖は最低でも2%生地に添加する必要があります。でないと、イーストの発酵力が弱くなってしまいます。


■ 砂糖が入っていないパン

もう1つちなむと、バゲットやルヴァンなどいわるゆ「ハード系」のパンには、砂糖は一切添加しません。代わりに、モルトという麦芽糖(イーストの細胞膜を通過できる糖分)のエキスを配合します。モルトを入れない場合、通常は、小麦粉のでんぷんは、小麦粉内の酵素の作用により、麦芽糖に分解され、はじめて糖分としてイーストが利用できる状態になります。が、モルトエキスで麦芽糖を直接生地に入れることで、ショ糖のように、糖分がすぐにイーストに活用され、発酵の初動を助けます。なので砂糖(ショ糖)なしでも、きちんと発酵をします。
☞ 詳しくはこちらで紹介しています。興味のある方はぜひ!


1-3.パンをしっとりさせる



砂糖は、水に溶けやすく、水を抱え込む性質があり、パンをしっとりさせ乾燥を防ぎ、パンの老化を遅らせます:

■ 親水性が大きく、水に溶けやすい

親水性とは、水と結びつきやすい(溶けやすい)かです。砂糖は、親水性が大きく、ミキシングと同時に水をすぐに吸収します。

■ 砂糖は、水分活性を低下させる

水分活性とは、食品に含まれている、自由水の割合です。(これは0~1で表します)。食品には2種類の水分が含まれています:

① 自由水:カビや細菌等の微生物が利用できる水で、自由水の割合が大きい
ほど、微生物が繁殖しやすくなります

② 結合水:食品中の他の成分と水素結合で束縛されている水で、微生物が自由に利用できない水のことです。結合水の割合が高いと、微生物が繁殖しずらく、食品の長期保存が可能になります。(例えば、砂糖がたくさん入っているチョコレートや、塩漬けは保存がききますよね、)
  
⇒砂糖は、水と結合しやすく、水を抱えこみ、離さない性質があります。さらに、砂糖は、水分活性を低下させ、パンの大敵である乾燥を防ぎ、パンの老化を遅らせる効果があるのです。


1-4.生地を傷みにくく、伸びやすくする

 


砂糖は、生地の伸展性をアップし、伸びやすくします。
これには、浸透圧が関係します。

■ 浸透圧についておさらい!

浸透圧とは、2つの濃度が異なる液体が、半透膜(水は通すが、水に溶けている砂糖などの分子は通さない膜)を隔てて隣り合った時、濃度を一定に保とうする水分の圧力のことです。水分は、濃度の薄い側から濃い側に、半透膜を通過して移動します。

イーストは、70%が水でできていて、細胞膜を隔てて生地内の材料(水、塩、砂糖等)と共存しています。なので、生地内に砂糖が添加されると、浸透圧が生じ、イースト内と外の液体の濃度を一定に保とうという圧力がかかります。

■ 浸透圧が上昇すると、グルテン結合が阻害される

浸透圧が上昇すると、グルテン結合が阻害されます。グルテン結合は、パンの骨格を支える大事な構造です。結合が弱まると、パンが上に行く力(弾力)は弱まりますが、かわりに、伸展性(伸びる力)がアップします。結果、横にだれやすい生地になります。(砂糖が多い生地を食パン型等で焼くと、生地がだれているため、とても角ばった仕上がりになります。)

一方で、よく伸びるということは、分割、丸めや成形等、生地に力が加わる工程では、生地へのダメージが軽減でき、生地が傷みづらくなります。砂糖の添加量が多い(~15%)菓子生地等は、機械耐性がアップするので、機械でがんがん分割・丸めをしても耐えられます。人間の体も筋肉が柔軟なほうが、がんがんスポーツをしてもケガをしにくいですよね。
☞グルテンの詳細はこちら:パンの発酵の仕組みと、発酵を左右する要因【わかりやすく図解】


1-5.パンの色づきをよくする



イーストのエネルギー源として利用されず、生地中に残った糖分(残糖)は焼成で熱が加えられると、カラメル化反応と、メイラード反応という、2つの反応を起こします。この反応が、生地を茶色く香ばしいパンへと変化させます。

■ カラメル化反応

糖が、約170℃~190℃に加熱されると、カラメル(キャラメル)と呼ばれる褐色の物質に変化します。プリンなどのお菓子で、よく食べるキャラメルがパンの中でも生成されているのです。このキャラメルがパンの焼き色と、香ばしい香りのもとになります。

■ メイラード反応(アミノーカルボニル反応)

生地中の還元糖(ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖)は、生地中のたんぱく質(アミノ酸※)と一緒に加熱されると、メラノイジンという褐色物質と、香り成分を生成します。メラノイジンがパンの焼き色となります。身近なところでいうと、これはステーキに焼き色が付く原理と一緒です。この反応は160~180℃の温度帯で起こるので、順番としてはメイラード反応が起こった後に、カラメル化反応が起きます。

※たんぱく質は、小麦粉中にあるプロテアーゼという酵素の作用で、アミノ酸に分解されます。

この2つの反応のおかげでパンに、おいしそうな焼き色と香りが生成されます。

 

 

2.砂糖の添加量 少ない vs. 多い



ここまでで砂糖の効果を、解説していきました。それでは上記のような効果を得られる、適切な砂糖の添加量はどれくらいで、それより少ないor多いと、生地にどのような影響があるのでしょうか?

まずは、適切な添加量をみていきましょう:

2-1.適正な添加量は、対粉7~8%


■ 添加量

  • 砂糖は添加量が、小麦粉に対して7~8%程度で、発酵を促進します。(小麦粉100gの配合であれば、砂糖の添加量は7~8g)。しかし、15%以上添加すると、イーストの発酵を浸透圧のため抑制してしまいます。

  • グルテン構造に関しても10%までは、イーストの活動で生成されたガスの保持力を増しますが、それ以上入れるとパンの骨格となるグルテン結合をも阻害し、生地がダレてしまいます。

  • ご説明の通り、砂糖はイーストがすぐにエネルギー源として分解可能な小さい糖分(ショ糖)です。初動が速い分、添加しすぎるとパン生地への影響がでやすいのです。

■ 砂糖の添加量と吸水について

砂糖は、親和性が大きく、水分を抱きかかえて離さない性質があるため、配合の吸水量に気を付ける必要があります。一般的に、砂糖を+5%添加するごとに、水をー1%します。

 
★ ワンポイントアドバイス:ミキシング時の生地のかたさ

砂糖はすぐに水を吸うので、ミキシングスタート時には生地が一見固くみえますが、しばらくすると砂糖がとけて、生地がべたっとしはじめます。生地が固いからと、水を足すのは、しばらく様子を見てからにしましょう。

 


2-2.砂糖の添加量と各工程への影響

それでは、砂糖の添加量が少ない場合と多い場合で、それぞれ工程ごとにどのような変化と影響があるのかを見ていきます。

ちなみに、一般的な食パン生地の砂糖の添加量は6%、吸水は72%程度です。

※下表、「ミキシング時」には、パン屋で使うミキサー(パン捏ね機)を用いた場合の、捏ね時間を参考までに記載しています:
L=低速(1足):手ごねの場合⇒材料を合わせて生地をこすりつけて捏ねる
M=中速(2足):手ごねの場合⇒生地をたたき捏ねる
H=高速(3足):手ごねではできないが、たたき捏ねの激しいバージョン

LMHのとなりに記載された数字は捏ねている分数です。
例:L4=低速で4分捏ねるという意味

↓は、油脂を投入するタイミングを表しています。

砂糖添加量 0% なし 20% 多い
吸水 73% 69%
ミキシング時 L4M4H1↓(油脂投入)
L1M3H1

ミキシング直後すぐにまとまり、さらっとしている。

やわらかいが、とてもきれやすく、高速で捏ねるとだれて、しっかりまとまらない

⇒やわらかいが、伸びに欠け、切れやすい

L4M4H3↓(油脂投入)
L1M3H1

ミキシング直後からべたついて、生地がボールのまわりにはりつき、カードで何度もかかないとまとまらない。

Hで捏ねて初めてまとまりはじめるが、べちゃべちゃ音をたて、ボールにまとわりつく。※砂糖添加0%の生地よりもHのミキシング時間が長い。

⇒とてもよく伸び、膜も薄い

分割時 イーストの発酵が抑制されているので、ガスがなく、弾力がない 砂糖は保水性が高いので、生地表面がてかてかしています。発酵も過剰なので、ふわふわだが、グルテンが引き伸ばされすぎて、生地の目は粗い
成形時 ガスが相変わらず少ない 生地は伸びているが、砂糖でグルテン結合が阻害されているため、弾力がなく、横へだれている
最終発酵 イーストに十分なエネルギー(糖分)が供給されていないので、時間がかかる 砂糖の浸透圧の効果がでてきて、イーストの発酵も落ち着いてくる

☞パンの工程について、おさらいしたい方:パンの作り方:計量から焼成まで【基本の工程をやさしく図解】

2-3.焼成&仕上がり



砂糖なしの生地と、砂糖多めの生地の焼き上がりはごらんのようにとっても違います:


■ 砂糖添加なしの生地(写真左)は

  • キャラメル化反応も、メイラード反応も起こりづらく、いくら焼いても色が白いままです。

  • ガスが少なく生地が伸びきっていないので、ボリューム(サイズ)も小さいです。

  • 砂糖はグルテン構造に伸展性と伸びを持たせますが、添加0%の生地は伸びがなく、とても傷つきやすい生地のため、表面もあれてせんべい肌になります。

  • 保水性が低く、乾燥しやすいです。

  • 味気のない仕上がりになります。

■ 一方砂糖の添加量が多い生地(写真右)は

  • 砂糖が過剰なので、キャラメル化反応とメイラード反応が進み、黒くなります。

  • ガスも過剰に生成されているので、ボリュームは大きいが、スライスしたときの断面はグルテンが引き伸ばされて、粗くなりがちです。

  • 伸びはありますが、弾力がないため、全体的にぺたっとだれやすい(角ばりやすい)です。 

  • また、保水性が高いので、生地のサイドがやわらかく、こしおれしやすいです。

  • しかし、保水性が高いので、生地が乾燥しずらく、パンの老化が遅くなります。

  • 甘味を感じるパンに仕上がります。


 

3.まとめ

 

  1. ミキシングと同時に、イーストの発酵のエネルギー源になる。
    (初動が早い)

  2. パンを甘くする。

  3. 砂糖は、親水性が多く、水分活性を低下させるのでパンをしっとりさせ、パンの老化を遅らせることができる(保存長期化)。

  4. 砂糖は、グルテン結合を阻害するはたらきがあり、生地を伸びやすく、傷みにくくする。これにより、機械耐性がアップし、分割・丸め・成形等、力が加わる工程に生地が耐えられるようになる。

  5. カラメル化反応と、メイラード反応によりパンの色づきをよくし、香り成分を生成する。

  6. 適正な添加量は7~8%、多くても15%にとどめる。


 

4.最後に、激甘パンが作りたい方へ


砂糖の効果について、解説してきました。一般的に、砂糖を15%以上も添加するケースは少ないと思いますが、どうしても激甘パンを作りたいという場合は、クリーム等フィリングを巻き込んだり、焼成後アイシング等トッピングをのせる、チョコ掛けする等工夫するのが一番間違いないと思います。

生地自体を甘く!という場合は、加糖中種法といい、あらかじめ、浸透圧に耐性を持たせた発酵生地を作り、それをミキシングで他の材料と合わせていくという手法もあります。パン屋さんで、菓子パン生地や、クリスマスのパンドーロ等砂糖の添加量が多くて、あまいパンを仕込むときに使われている手法です。
☞加糖中種法の甘いパンレシピはこちらです:ミルクのちぎりパン【耳まであまふわ、おやつにおすすめ】

それでは今日も、パン作りを楽しんでください:)

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コメントお待ちしてます!

コメント一覧 (2件)

  • 初めまして。

    パン作り初心者のものですが、私の知りたい事の詰め合わせブログです。

    こんなに詳細に書いていただいてありがとうございます。

    • はじめまして。
      メッセージありがとうございます!
      こちらこそブログを読んでいただきありがとうございます。励みになります。
      これからもお役に立てるような記事を投稿していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

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