塩は、パン作りに欠かせない材料ですが、世界には塩が入っていない、パーネ・トスカーノ(Pane Toscano / Tuscan bread)と言うパンがあります。このパンは、イタリアはトスカーナ州が発祥とされています。
パンの皮が厚く、おせんべいのようにバリバリしていて、香ばしいです。身の部分は、柔らかいです。塩なしなので、チーズや生ハムなど味の濃い付け合わせやお料理によく合います。
このパンの作り方とパーネ・トスカーノ誕生の歴史的背景、塩なしパンだからこその食べ方についてご紹介します。
1.お国は、イタリア、トスカーナ
■ トスカーナ州について
パーネ・トスカーノ発祥の地、イタリアはトスカーナ州はイタリアの中部にあります。上記地図の赤い線で囲ってあるエリアが、トスカーナ州です。
州都は、ルネサンス芸術の中心地となった、フィレンツェ(Firenze)です。その他にも、ピサの斜塔で有名なピサ(Pisa)や、シエナ(Siena)などの芸術古都があります。
トスカーナ州の東部、北部、南部はほかの州と隣接していますが、ピサがある西部は地中海に面しています。そのため、7世紀~12世紀までは、ピサはトスカーナ、フランス、スペイン等の地域における交易の中心地の役割を果たす主要港として繁栄していました。
2.なぜ、塩なしなのか
■ 塩なしパンの誕生には、2説ある
パーネ・トスカーノに、なぜ塩が含まれていないのか。これについては、2つの説があります。キーワードは政治情勢と貧困です。
【ライバル都市説】
1つ目の説は、中世時代(12世紀)ライバル関係にあったフィレンツェとピサの政治情勢が影響しているとする説です。
この両都市の戦いは、当時、貿易の主要港があったピサが有利でした。ピサは、港に到着した塩が、内地にあるフィレンツェへ売られないよう、ブロックしたのです。塩がなくても、パンは生きていくために作らなければならない。そこで、当時のフィレンツェのパン職人が塩を入れずにパンを作ったのが、パーネ・トスカーノの始まりとされています。
貴重になった塩は、毎日たべるパンへの使用をやめ、代わりに、長期保存用の加工肉を作るために、使われるようになりました。
【貧困説】
2つ目の説は、中世13~14世紀の教皇(Pope:カトリック教会の最高位聖職者の称号)が塩に課税をしたためとする説です。
当時のイタリアは、貧困が広がっており、塩は高価な贅沢品であり、とても当時の市民にとって簡単に手が届く材料ではありませんでした。塩への課税への不満も込めて、当時のパン職人は、パンに塩を入れることを拒否し、塩なしパンが誕生したとされています。
【説や意見がいろいろあるが、現代も愛されているパン】
このように、港都市と内地都市の政治情勢や、貧困説がありますが、実際のところは不明なようです。両方が影響しているとする考え方もありますし、単純にトスカーナ地方には、チーズやハムなど味の濃い料理が多かったから、塩なしパンが主食として最適だった、との声もあります。
どちらの説にせよ、この塩なしパンは、塩なし故においしく頂くための工夫がされ、それがトスカーナ地方の食文化・郷土料理の発展へとつながりました。
そして、塩が簡単に手に入る現代でも、塩なしのパーネ・トスカーノは愛される郷土料理として、みんなのお腹を満たしているのです。
☞関連記事:塩とパン作り【塩を2%入れる効果と意味】
3.材料
【お国】イタリア
【焼き上がりサイズ】1ローフ
およそ23×12㎝
【カロリー】1097 kcal (10スライス分)
1切れ当たり:110 kcal
【作業時間目安】1日目:仕込み20分
休ませ一晩
2日目:4時間程度
【道具】カード、鋭いナイフ
【製作日の気象条件】8月 PM 🌡32℃
☼晴れ
■ 材料一覧:
<中種:前日仕込み>
・強力粉 60g (20%)
・インスタント
ドライイースト 1g (0.3%)
・水 50g (16.7%)
<本捏ね>
・強力粉 190g (63.3%)
・薄力粉 50g (16.7%)
・インスタント
ドライイースト 1g (0.3%)
・水 175g (58.3%)
生地量合計: 527g
⇒かっこ内の%は、ベーカーズパーセントです。0.1gは四捨五入。
■ 強力粉:日清製粉「カメリヤ」
初心者でも使いやすい定番の小麦粉。
※「スーパーカメリヤ」という小麦粉もあるので、ご購入の際は商品名の確認をお願いします。
■ 薄力粉:日清製粉「フラワー」
本レシピでは強力粉のたんぱく質量をやわらげるために、配合しました。
■ サフ・インスタントドライイースト(赤)
本レシピのような、糖分12%ほどの低糖生地向けのパン酵母です。予備発酵不要なので、粉に直接まぜたり、振りかけて使用できます。
★ 小麦粉についての補足
参考にしたイタリアのレシピでは、King Arthur Baking CompanyのUnbleached, All-Purpose Flourという小麦粉を使用したものがいくつかありました。たんぱく質量が、11.7%なので、本レシピでは、日本のスーパーで手に入りやすい、カメリヤ(たんぱく質量11.8%)とフラワー(8.9%)を使用しています。
☞参考レシピ・サイト一覧は記事下部にまとめてあります。
4.作り方
<1日目:中種を作る>
- 人肌のぬるま湯とイーストをよく混ぜる。そこへ粉を投入し、10分ほど捏ねる。生地の表面がなめらかになり、持ち上げたときにしっかりつながっている状態になるまで、捏ねる。
- 生地をまるめて、ボールに入れラップをする。そのまま、冷蔵庫で一晩発酵させる。
<2日目:本捏ね>
【一晩発酵させた中種】
3倍ほどの大きさになり。グルテンがつながっているので、引っ張るとかなり伸びる。
- 下準備:本捏ねの材料の内、イーストと水を溶く。
- 大きいボールに粉を計量し、そこへ1.のイースト液を投入する。カードで切るよに合わせていく。
- 粉けがなくなってきたら中種をちぎって入れて捏ねていく。
- 面台に生地を出して、こすりつけながら捏ねたり、たたき捏ねをする。表面がなめらかになるまで、20分ほど根気よく捏ねる。(10分ほどで生地がまとまりはじめ、さらに20分捏ねるとなめらかになってくる)
★生地がやわらかいので、たたきながら捏ねたほうがまとまりやすい。
【捏ねはじめは、かなり柔い】
【10分ほど捏ねるまとまってくる。下写真のように、面台にたたいて、たたんで、たたいてを繰り返す】 - ボールに戻し、ラップをし1次発酵をとる。
<1次発酵>
【発酵の目安】
常温で1時間か、2倍の大きさになるまで。
【発酵前】
【発酵後、3倍弱まで膨らむ】
<成型> - 生地を、粉をふった面台に出す。とじ目を下にし、大きいガスを抜く。
★水分量が多く、やわらかい生地なので、粉はたっぷりめに振る。 - 生地をひっくり返し、とじ目を上にもってくる。形を四角に整え、なまこ型に成型する。
★生地は柔らかくて、長さが出やすいので、発酵後の大きさを考慮し、鉄板よりも短くなるよう調整する。
【なまこ成型 手順】 - 最終発酵をとる。
<最終発酵>
【発酵の目安】
常温で40分~、あるいは2倍になるまで。
※発酵をとっている間に、オーブンを230℃に予熱する。
【発酵前】
【発酵後】
<焼成> -
クープを入れる:鋭いナイフでパンの表面に格子模様を入れる。
★生地がやわらかく、刃が引っ掛かりやすいので、手早く行う。 - パンの表面に霧吹きし、オーブンにつっこむ。
※本場では、石窯を使用。
【焼成目安】 - 230℃で15分、反転し、200℃で20~分焼く。
- こんがりしたら、オーブンから出し、軽くショックを与えて完成。
焼き上がりは、皮目からぱちぱち、おいしそうが音がします:)
ちなみに、このぱちぱち音は、”Crackling sound”と英語で言いますが、”bread singing”などと表現されたりもします。日本では、「天使の拍手」と言われているそうです。
この音の正体は、窯伸びしたパンが、オーブン外の冷たい空気に触れたとき、少し皮が縮み、ひび割れるときにする音です。焼きたてだからこそ聞ける期間限定の音なので、ぜひ耳をすませてね:)
内相は、こんな感じです。
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